ひぐまの森

あらゆる人間がいずれ受ける暴力についての諸論考

takasago ロングインタビュー

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性、死、孤独、憂鬱、欲望、権力――人間という生物の在り方を、高度に洗練されたポップなギターロックに乗せ歌い続けてきたtakasago。代表作「セックスダイナミクス」で邦ロックシーンに鮮烈なデビューを飾り、「ZYOSEN BOYS」名義でのライブ、「しかし犬死にではない」名義での楽曲発表など、精力的に活動を続けている。そして8月には新曲「ローアングル・ヴィーナス・ブルース」を発表し、リスナーからの高い評価を受けた。今回は彼の音楽に迫るため、ロングインタビューを敢行した。

 

◆音楽体験について

――本日はよろしくお願いします。さて、ベタな質問からで申し訳ないのですが、takasagoさんが音楽の道に入ったきっかけは何だったんでしょう。

takasago: こちらもベタなお答えで申し訳ないですが(笑)、小学生の時にクラシックピアノを習わされてた時からですね。そこからの流れで吹奏楽部に入ったりしました。

――吹奏楽部では何のパートを?

takasago: サックスでした。セックスはしたことがありませんけどね。

――セックスへの思いがtakasagoさんの音楽を形作ってるんですね(苦笑)。小中学校のクラシック音楽の体験は、takasagoさんの今の音楽に関わっているのでしょうか。

takasago: いえ、全くないですね。クラシックというのは聞くべきものであったとしても、無理に参照すべきものであるとは思えません。しかし、それらがわれわれの背景を作っているという意味では、われわれは常にクラシックに関わっていると言えるかもしれませんね。

――では、ロックを始めるにあたって、どんな音楽やアーティストに影響を受けて来られたのでしょうか。

takasago: 顔はナンバーガール向井秀徳さんですね。よく似ているといわれます。

――確かに(笑)。では、顔以外は?

takasago: そこまで影響を受けたと言えるほどよく聞き込んだアーティストがいないのですが、最も影響を受けたと言えるのはおそらくthe pillowsですね。小学校5年生の時からずっと聞いてきました。特に90年代後半の、『Please Mr. Lostman』から『Happy Bivouac』の時期に最も影響を受けていると思います。

――確かに「ハッピー・バースデー」や「いつか みた うみ」のポップな中にもメロウなテイストのある曲を聞くと、the pillowsからの影響を強く感じますね。

takasago: あと、これはごく最近の話ですが、解散してしまった伝説のバンド、ハヌマーンからは強く影響を受けています。ハヌマーンを聞くようになってから、コード進行や音作りにおいてかなり影響を受けています。

――なるほど。確かに「Mr Cesium」や「Goodbye, No. 9」、そして最近発表された「ローアングル・ヴィーナス・ブルース」などは、ナンバーガールハヌマーンのポストロック的なアプローチを感じていました。

 

◆曲作りについて

――takasagoさんの楽曲の歌詞は人の情熱と憂鬱や性と死をソリッドなテイストで歌い上げることで、リスナーからの厚い信頼を得ていますが、takasagoさんは歌詞を考える時、どういうことを意識されているのでしょうか。

takasago: 一言でいうと「性欲と閃き」です(笑)

――性欲ですか(笑)

takasago: はい。人の感情はすべてファルス(性欲)に起源します。皆さんのファルス(性欲)に訴えかける訴えかけるのに必要なのはロゴス(言葉)ではなくパトス(情熱)であり、エピステーメ(知識)ではなくドクサ(閃き、思いつき)なのです。つまりセックスについて考え続けることによって、人に最も寄り添った歌詞がかけるんだということです。

――なるほど。では、曲の方はどうやって考えているのでしょうか。「セックスダイナミクス」や「EinB」をはじめ、takasagoさんの作るメロディは一度聞くと耳から離れないというものが多いですよね。あのメロディをどうやって作ってるんでしょうか。

takasago: これは本当に説明が難しいのですが、自分で考えているというよりは、神によって思いつかされるという感じですね。例えば、ある晴れた朝に、何の前触れもなく突然メロディが思い浮かぶんです。かの有名な精神病患者ダニエル・パウルシュレーバーは、錯乱しながら書いた手記の中で、人間が何かを話すということは、神によってすでに書き込まれたことを太陽光線を介して受け取って書かされているということだと述べたそうなのですが、それと同じだと思います。つまり作曲とはある種のパラノイアなのかもしれない。

――パラノイアですか。

takasago: そうです。だから一度思いついたメロディは頭から離れなくなるんです。飯を食ってる時も、風呂に入ってる時も、オナニーしてる時ですら頭の中で流れてる。だから俺、よく歌いながらシコってますね(笑)

――流石ですね(笑) しかし一度聞くと離れないtakasagoさんのメロディの秘密が少し明らかになったような気がしました。

 

◆新曲について

――新曲、「ローアングル・ヴィーナス・ブルース」は、コスプレで自己顕示欲を満たす女性の欲望を直情的に歌い上げた曲です。インターネット上でも高い評価を受けていましたね。この曲のコンセプトはどうやって決まっていったのでしょうか。

takasago: 詳細な過程は覚えてないんですが、仲間内で会話している時に着想しました。ほぼ全裸みたいな格好で汚い男たちに写真を撮らせている姿を見て、これは「狂気」だと思ったんですね。自らの貞操の代償に自己顕示欲を満たす女、彼女たちの欲動を捨象しその形象のみをフィルムに焼き付ける男たち。小説家のミシェル・ウエルベックが『プラットフォーム』の中で「感情の昂揚とセックスに対する強迫観念の源は同じなんだ。どちらも部分的な自己放棄から生じている。それは堕落しないでは実現できない領域だ」と言っていましたが、まさにこの曲の言わんとしてるのは彼らによる自己放棄の狂気なのです。

――なるほど。そのコンセプトは、疾走感のある攻撃的なサウンドの中にも現れていますね。

takasago: そうです。またこれは都市の問題も絡んでいます。楽曲の中で描いた女性は、田舎から長い時間をかけてビッグサイトまで出てきて、都会でその身体を性的に消費されます。つまりこの現象は、単にコスプレイヤーローアングラーの自己意識の問題ではなく、東京という都市がその周辺を食い尽くしていく暴力的な過程でもあるのです。この曲では、そういう暴力が、今、まさにここで起きているということを、表現したかったんです。

――うーん、深い。

takasago: 単にコスプレを楽しんでいる人たちは怒るかもしれません。ですがコスプレをあのような形で晒すということ自体が、そのような狂気と暴力を孕んでいるということは胸に留めておくべきだと思います。俺がこの曲で描いたものがまさに自分がやってることだと分かっていないレイヤーとは、一度コスプレセックスがしたいですね。ほら、お前もこの曲で描かれてる通りだろうって(笑)

 

◆新曲の予定

――新曲を作る予定はあるのですか。

takasago: 思いついてはいますが、発表は少し先になりそうです。まだコンセプトも固まっていないので詳細にお話しすることは出来ませんが。

――1ファンとして心待ちにしております。女の子に気に入られそうな曲になりそうですか。

takasago: そういうのは作れないですね(笑)

 

 

※takasagoの楽曲は以下のリンクから聞くことができます。

takasago@JP's profile - Listen to music

(聞き手: ひぐま)